ペンフィールドのホムンクルス
ペンフィールドのホムンクルスをご存知だろうか。顔や舌、親指が異常に大きく、奇妙な形のコビトの図で、大脳の運動野や体性感覚野に体の部位を対応させて描かれている。この図は、カナダの脳神経外科医ペンフィールドがてんかんの手術の際に脳を電気刺激して、反応があった領域の面積に応じて体の各部分を描いたものである。この図が示すように脳が司る機能は、機能毎に部位が決まっていて、それを機能局在と言う。脳に機能局在があることは、古くから知られており、例えば1861年にブローカは運動性失語症を呈した患者の脳の研究からブローカ野を、1874年にウエルニッケが感覚性失語症を呈した患者の研究からウエルニッケ野を同定したのは有名である。そして20世紀半ばまでには、機能局在を考慮した脳手術の必要性が認識されたが、古典的な形態学に基づく脳の機能局在同定法では、脳回の個体差や病変による偏位により、個々の患者における機能局在を同定することは困難で、実際に機能局在を考慮した脳手術がわが国でも積極的に行われるようになったのは、21世紀になってからである。
近年の医工学の発展は目覚ましく、無侵襲的に神経活動を評価する方法の開発が進み、例えば機能MRIは脳の活動部位を無侵襲に検出し、その精度も向上しているが、まだ機能MRIのみのデータに基づいた手術を行うまでには至っていない。やはり手術中に電気生理学的に機能野を同定する必要がある。この目的で行われるのが、覚醒下脳手術である。覚醒下脳手術は、手術の途中で一度全身麻酔を覚まして、切除しても生活に必要な脳の機能に障害が出ないことを確かめながら行う手術法である。これは、脳神経外科医だけが行える手技である。患者さんを病から救うことはもちろん、機能MRIのような無侵襲的な検査法とこの覚醒下脳手術によって実際に得られる知見の比較検討こそが、特に高次脳機能の解明には不可欠であり、脳科学発展のため脳神経外科医に寄せられる期待は大きい。
医学生・研修医諸君!そんなやりがいのある脳神経外科医を皆さんが目指してくれることを心から願っています。
山形大学総合医学教育センター
佐藤慎哉