多様性とバラバラは違う
気をつけないと老害になりかねない年代になってきました。一方で、妬みのような感情は少なくなり、年齢に関係なく、優秀な方に接すると、「すごいなー」と素直に感心しています。もっと若い頃より色々な人の話を聞いていれば、今とは少し違う世界が開けていたかも、と思う反面、同じ話を聞いてもその時々で受け取り方は異なるので、やっぱり同じであったかな、とも思います。
能力には色々なものがありますね。ネガティブ・ケイパビリティ(negative capability)は不確実なものや未解決のものを受容する能力で、ウィキペディアによると200年以上前から知られているようです。すぐに答えを出さず、迷ったり、悩んだりする能力とか、自分ではどうにもならない状況をもちこたえる能力という解説もあり、日頃、悩むことを否定的に考えるのではなく、「自分はネガティブ・ケイパビリティが高い」とポジティブに考えるようです。
脳科学の進歩は目覚ましく、脳神経外科にも新しい技術がどんどん導入されています。新しい技術の習得は若手もベテランも同じ条件ですので、通常、若手がどんどん追い抜いていきます。そういう意味では、脳神経外科は若い医師にチャンスが大きい診療科と言えます。AIがさらに進歩すると、ベテランの強みである知識や技術面での経験による優位性が怪しくなるどころか、理解すら困難な最新医療が登場してくる可能性があります。様々な治療手段があることは良いことですし、それを使いこなす多様な人材も必要となり、働き方も大きく変わってくるでしょう。しかし、個性や多様性は尊重すべきですが、ベクトルの分散とは同義ではなく、患者の最終転帰改善という向かう方向を同じとしなければ意味がありません。これからの時代は、ネガティブ・ケイパビリティだけでなく、様々な意味での総合力が益々、必要になると思いますが、脳神経外科の診療を通じて必ず獲得できます。これは病院長などに就任する脳神経外科医が割と多いのと無関係ではない気がします。
三重大学大学院医学系研究科脳神経外科 鈴木秀謙