脳神経外科コラム

脳神経外科のすすめ 3

2022.08.01と2024.01.04のコラムの続編です。
2024年4月、医師の働き方改革が本格施行され、私たち医療者の働き方にも大きな変化が訪れました。長時間勤務や過度な連続勤務は法的に制限され、「医師=不眠不休」という時代錯誤のイメージは徐々に過去のものとなりつつあります。これは患者さんにとっても、持続可能で質の高い医療を提供するうえで重要な転機です。
一方で、研鑽のために日夜問わず病院に身を置き、経験を積むことが当然とされていた時代に比べ、今は診療・研究・教育に使える時間が限られつつあることも事実です。では、この変化は「脳神経外科の魅力」を損なうものなのでしょうか?私は、そうは思いません。
むしろ、限られた時間の中で「何を学ぶか」「どう成長するか」を自ら選び取る力がより重要になった今こそ、脳神経外科の本質的な魅力が際立つ時代だと考えています。
脳神経外科では、手術だけでなく、神経学的診断、画像診断、内科的治療、放射線治療、さらにはリハビリテーションにも広く携わります。脳・脊髄に関連する数多くの疾患において、予防から急性期・慢性期の治療に至るまで、多岐にわたるフェーズを担う診療科であり、それだけに多彩なキャリアパスと選択肢が広がっています。限られた時間の中でも、自らの関心に応じた専門性を深め、将来像を描きながら研修を積むことが可能です。
また、昨今では、手術支援ロボットやAIによる画像診断支援などの技術革新も進み、医師の働き方そのものが変わり始めています。チーム医療の中での役割分担も進み、以前のように「一人ですべてを担う」時代ではなくなってきています。だからこそ、自分らしい脳神経外科医像を描く自由度は、むしろ高まっているといえるでしょう。
若い皆さんには、時代の変化に戸惑うことなく、柔軟な視点と好奇心をもって脳神経外科の門を叩いてほしいと願っています。この変化の時代を、ぜひとも一緒に切り拓いていきましょう。

東京女子医科大学 脳神経外科学講座
川俣 貴一