脳神経外科コラム

カンファレンスでの一言

 「手術は一期一会である」、これは私が入局時に指導いただいた端和夫教授がカンファレンス時に発した一言です。同じ部位の同じような病変でも、周囲構造物との位置関係や病変自体の性状によって一例一例異なるので、毎回きちんと考えて確実な手術をしなさいという教えであると捉えました。この言葉を様々な講演の際に使用させていただくのですが、端先生に話をすると「そんなこと言ったかいな」とおっしゃいます。上級医の何気ない、しかし芯を突くような一言を、意外に若手医師は覚えているものです。
 「きちんと考えて」は戦略、「確実な手術」は戦術であり、当科のカンファレンスでも上級医はこの二つを念頭に置いて若手医師を指導しています。患者さんが外来に来てから、治療介入後10年以上先までを見据えた戦略を練ると同時に、外科医として技術を磨き戦術を極めることは非常に重要です。術前カンファレンスでは治療適応や手術手技のポイントなどを吟味し、術後には手術動画を検証し、画角・倍率・焦点など人の目を意識した手術を心がけるよう伝達しています。
 時々言われるのですが、先日も「手術をしてもらって人生が変わりました」と感謝の言葉をいただきました。一週間に三人、うち一人は八十歳を越えている患者さんからこの言葉をいただくと、脳神経外科医として仕事のやりがいを実感するとともに、患者さんは人生をかけて手術に臨んでいるということを改めて思い知らされます。
 時の流れは一定ですが、自分が好きなことに集中していると時間は早く感じます。集中や熱中とも異なり、私は没頭という言葉が適切だと思います。若手の脳神経外科医には自分が選んだ仕事に没頭し、戦略・戦術を意識して、患者さんの人生を豊かにするような医療を提供して欲しいと願っています。

 

大阪医科薬科大学 脳神経外科学教室
鰐渕昌彦