脳神経外科コラム

医師が患者になった時2 〜治療を受けながら働く〜

先日、化学療法が終了した。診断から2年半、4回の手術と4つの化学療法レジメンを経て、今の所は再発なく経過しているようだ。

 

生まれて初めてがん治療を行うにあたって、どんな副作用が起きるのか、どこまで日常生活・仕事ができるのか、先の見通しが立たずわからないことばかりであった。手術のみでは病勢を抑えきれずついに化学療法を行うことになったが、薬の副作用で心も体もすっかり参ってしまった。でも仕事は生き甲斐のようなものだし、長期で休職すると経済的に苦しい。患者さんや同僚にも迷惑をかけるだろう。今までみたいになんでもはできないかもしれないが働きながら治療を続けたい、そんな思いが強かった。

 

勤務先で治療していたのもあって、治療中は主治医の他、産業医や両立支援科のスタッフに手厚いサポートを受けることができた。病状に合わせた就業制限をもうけた上で仕事が続けられるよう配慮していただいた。同僚の先生に負担をかけたことは本当に申し訳なかったが、なんとか長期の病休を取らずに仕事を継続できた。

 

がんになったことで得られたものを「キャンサーギフト」というらしい。私はがんになったことを感謝できるほど達観しているわけではないが、それでも治療期間中に受けた周囲や産業保健スタッフのサポートはありがたく心強かった。

 

本当にいい時代にがんになったものだと思う。

 

がん治療の進歩により治療と就労を両立して復職する労働者が増え、2019年にはがんサバイバーの復職率は53.8-95.2%と報告されている。最近では、がんや精神疾患などの長期の治療を必要とする疾患に罹患しても、治療しながら働くことができるよう両立支援の取り組みが全国に広がりつつある。
治療の進歩と両立支援の取り組みが進む中で、今後さらに多くの人が治療と仕事を両立し、社会に参加し続けられることを願っている。