脳神経外科コラム

脳は美しい

 臨床実習に回ってくる学生さんと話していると時々「脳がきれいでびっくりしました」と言われることがあります。その言葉を聞くと私自身も嬉しくなり、「そうだよね!そう思うよね?」と周りの他の学生にも賛同を求めたくなります。例えば前頭葉と側頭葉の間にある脳溝であるシルビウス裂内を走行する血管とその拍動、小脳橋角部では、脳神経と血管の走行とその関係を見ると「脳は美しい」という感覚を実感できると思います。脳神経外科医の中には、「脳がきれいだと思ったので脳神経外科医になろうと思いました」という人もいるぐらいで、何を隠そう私が脳神経外科医になったのもそれが理由の一つです。今は多少その感覚が薄れてきましたが、側脳室、第三脳室、第四脳室などの脳室の構造を見る時もやはり美しいと思います。脳脊髄液も正常では無色透明で、きれいで不思議な液体だと思います。また脳の機能はまだ分からないことも多く、神秘的と言えるでしょう。このような感覚は他の診療科ではあまり感じないかもしれません。

 

 人間は、興味を持つものだったり、面白いと思ったこと、そしてきれいだ、美しいと感覚的に感じたことに対しては、時間を忘れて集中できるとされています。脳神経外科の手術には、時間的に急を要する症例、時間外の症例、どんな手段を使っても治療が困難な症例もあり、脳の美しさを実感できないことも多いですが、治療中は時間を忘れて集中しています。もちろん患者さんを治療するために集中していますが、あるふと瞬間に「やっぱりきれいだな」と実感します。他にも脳神経外科の魅力はたくさんありますし、融合画像を用いた手術シミュレーションや仮想現実、複合現実を用いた取り組み、カテーテル治療、内視鏡手技の発展など、常に新しい技術を取り入れて成長し続けている分野です。

「脳は美しい」と思った皆さん、脳神経外科医の道を目指してください。きっと後悔しないはずです。

 

九州大学大学院医学研究院脳神経外科 

吉本幸司