脳神経外科コラム

神経系の総合診療医としての脳神経外科医

学生アンケートによると、脳神経外科医に対して抱くイメージの多くは「高度な手術技術」という難易度の高い手術のイメージが強いようです。しかし私が抱いている脳神経外科医のイメージは少し違います。脳神経外科医は、外科医というよりむしろ神経系の総合診療医といった方が正確な気がします。

 

脳神経外科の救急患者さんの多くは意識障害だけでなく、呼吸・循環障害を伴って運ばれてきます。そのため脳神経外科医は研修早期から気管内挿菅や呼吸器操作、血圧の上げ下げなど救急救命手技を十分に習得しています。また脳には全身の機能が入っていますので、術後には尿崩症や内分泌不全、感染症、肝障害など様々な内科合併症が生じます。そのため外科医でありながら、内科・総合診療医としての高い能力を有しています。

 

外科的治療手技も多岐に渡ります。脳神経外科は血管、腫瘍、脊椎・末梢神経、小児・奇形・機能、外傷・救急の各分野における膨大な疾患を診療します。経験すべき手術も各分野において異なり、顕微鏡手術、カテーテル治療、内視鏡を始め多種多様な手術があります。さらに手術だけではありません。外来がメインですが、片頭痛治療から漢方、神経根ブロックやボトックス注射など非手術治療も行っています。かく言う私も、聴神経腫瘍やAVM、もやもや病などの手術を行う一方、手のしびれに対して神経根ブロックや手根管症候群の手術も行なっています。日本の脳神経外科医はこと神経に関わる限り、中枢から末梢神経まで神経系に関して全てを見る総合診療医なのです。

 

また、脳は非再生臓器でありますので、その手術には大なり小なり後遺症がつきものです。そのため、後遺症の回復や復職についてリハビリ医や理学療法士と相談し、治療環境について看護師と相談し、経済面や利用できる福祉サービスについてMSW(社会福祉士)と相談しなければなりません。多職種の助けを借りながら患者さんを支え、社会復帰に導く経験を数多く積んでいます。多職種との連携・コミュニケーションを身につけた医師はまさに、これから求められる理想の医師像と言えるでしょう。

 

米国の脳神経外科医は主に手術のみを行いますが、日本の脳神経外科は、術前診断、術後管理、術後フォローなど全てを行います。自分が担当した患者さん、手術した患者さんについて、術後生じた神経症状がどの程度リハビリで回復し、どの程度仕事に戻れるのか、車の運転はできるのかなど自分の経験として知り抜いています。その結果、多数を手術するが経過を見ない米国式に勝るとも劣らない手術成績を残しています。

 

日本の脳神経外科は手術をしてそれで終わり、の外科医ではありません。患者さんに伴走し「最初から最後まで患者さんを診る」神経系の総合診療医です。皆様が抱かれているイメージが少しでも変わりましたら幸いです。

 

福井大学脳神経外科

菊田健一郎