脳神経外科コラム

治そうとするこころ・治ろうとするこころ

かつて、ブラックジャック「されどいつわりの日々」を題材に、整形外科医で現在日本医師会常任理事をされている長島公之先生と対談をしたことがあります。事故で四肢麻痺になった女性タレントをブラックジャックは手術するのですが、「治るはずなのに治らない」、この女性タレントは、あるきっかけでよくなり、芸能界に復帰したのですが、ほどなくして自殺してしまいます。実は女性タレントは自分のいる世界が精神的ストレスとなりヒステリーを起こしていたのでした。ブラックジャックが懸命に治療しても治らないはずです。手塚治虫先生がこの漫画で同時に描いておられるのはネコの親子で、母ネコは怪我をした子ネコをひたすらなめているだけ、でも子ネコは回復し歩けるようになるのです。

 

「おれはなんのために助けたんだ!!」これはブラックジャックの心の叫びです。「治そうとするこころ」で私たちは病気に苦しむ患者さんに手術を行い命を救います。これは当然のことなのですが、もっと大事なことはこころを救うことです。患者さん・家族の方と一緒になって、「治ろうとするこころ」を大切にしなくてはなりません。

 

これまで手術や日常の診療の中で思わぬ合併症に遭遇することも時にありました。脳神経外科医として反省すべきことも多々ありました。それぞれの事案で見えてくるものは患者さん・家族の方のこころです。医療過誤はなくてもこころのケアができなかったために生じる誤解がお互いを不幸にすることがあると思います。

 

脳神経外科を志されている先生方には、当たり前を当たり前とせずに、患者さん・家族の方の「治ろうとするこころ」を大切に、日々診療にあたっていただきたいと思います。

皆さんの前には、脳神経外科の明るい未来が広がっています。

国際医療福祉大学脳神経外科

松野 彰