脳神経外科コラム

変化を恐れない力

「脳を診て触り手を加える。そんな恐れ多い事が出来る医師それが脳神経外科医」

すなわちわれわれには、究極のストレス、それに耐えられるだけの技量と精神力が求められる。

 

私自身、これに憧れて脳神経外科を選んだ一人ではあるが、一地方大学で学生と向かい合う中で感じる事は、脳神経外科の魅力を語り伝えるがそれに共感してくれる学生の数は減り、たまに出会うモチベーションも志も高い学生の多くは都会の教育プログラムを選択する。脳神経外科専門医の受験数も私が受験した30年近く前からすると減少し、地方での脳神経外科医療の継続性に不安を感じる。地方都市では、人材確保のためには理想のみを語ることは出来なくなっている。若者たちが求めるQOLや診療からの精神的ストレスの軽減、女性のライフステージに応じた働き方などを真剣に考える必要性を痛感させられ、毎日の当直の廃止、主治医制からグループ診療の導入、診療看護師の配置と改善策を模索中だが、まだまだ地方大学での脳神経外科診療の崩壊の危機感は拭い去れない。

脳神経外科に対して我々が持っている崇高な先入観も、変えなくてはならない時代になっているのかもしれない。我々にも「変化を恐れない力」が求められる。

 

一方、脳神経外科医の仕事は手術だけではない。救急医療からリハビリテーションまで、予防医学から各種モダリティを用いた集学的治療まで、新生児から高齢者まで、脳科学からAIまでと守備範囲は広く、将来のキャリア構成での選択肢は驚くほど多く、個人の特性に応じた活躍の場が必ずある。

また、新たなステージでは、医療における我々の日々の努力や苦労に対する正当な評価を受ける事が出来る時代も近づいていると期待するとともに脳神経外科を多くの若手医師が選びたくなる、そのような時代に求められる環境作りを進めていきたい。

長崎大学医学部脳神経外科

 松尾 孝之