脳神経外科コラム

めぐりあい

医学生・初期研修医の皆さんも小説などの文学作品を読まれる機会も多いと思います。私も学会出張や眠れぬ夜などライトタッチな小説を読んでいます。数年前にはお笑いコンビピースの又吉直樹さんが芥川賞を受賞され、話題になりましたが、文学の世界ではどんどん新人が現れ、大きく羽ばたいていかれます。スタートから注目される作家、苦節何年の後に大成する作家、さまざまです。文学にとどまらず、美術の世界でもそうです。

 

「モンパルナスの灯」という映画をご覧になられた方も多いかと思います。貧困と病苦のうちに35歳でこの世を去った異才の画家モディリアーニの生涯が描かれた作品です。芸術・科学、すべての世界において真価が明らかにされるには時を要することがあります。E pur si muove(それでも地球は動く)、ガリレオ・ガリレイもそうです。

 

医療の世界でも同様に、個人の真価、真実はいつか評価されると私は信じています。最初から順風満帆の人生はまずありえません。各自がおかれた状況のなかで日々努力を重ねることが大事であることは言うまでもなく、誰かがその懸命な姿を見てくれていると信じています。一人ひとりの真価は必ず評価されるものです。そして大事なことは、めぐりあいであり、そのめぐりあいを如何に活かすことができるかです。

 

脳神経外科を始めて40年近くが経過しました。私はいわゆるスロースターターであったと思います。そのような私も、今あらためて、人生のめぐりあいをいかに活かすかということの大切さを痛感しています。医学生・初期研修医の皆さんにも是非とも脳神経外科とのめぐりあい、将来の恩師とのめぐりあいを大切にしてほしいと思います。

 

とりとめのない文章になりましたが、日本のそして世界の医療の将来を担う皆さんにエールを送りつつ筆を置くこととします。

 

(『脳神経外科速報』25巻10号(2015年)に寄稿したものより改変)

 

 

卒前卒後教育検討委員会委員
国際医療福祉大学医学部脳神経外科
松野彰